青春18きっぷで行く、浜通りラーメン数珠つなぎ②/③
この時間に、あの行列は見逃せない!
福島県浜通りのラーメンをめぐる旅。
初日の午前中だけで3杯を腹に収めて、少々苦しくなってきた。
現在地から「いわき駅」までは2kmほどの距離だ。食後の運動も兼ねて、散歩しながら向かおう。
「浜通りラーメン数珠つなぎ①」を読む。
膨れた腹をさすりながらのそのそ歩いていたら、ラーメン屋らしき店に人が並んでいるのを発見。
時刻は13時30分を過ぎている。この時間でも列ができるというのは、旨い店の証なのでは?
食べ切れるか一瞬の迷いが走ったが、気づけば列の最後尾に並んでいた。
あとで食べておけば良かった、という後悔だけはしたくない。
駅から歩いて20分ほどの距離だが、列に加わる人はあとを絶えない。
よっぽど評判の店なのかと思い、webで検索してみると某レビューサイトではいわき市内2位の超人気店だった。
ちなみに1位は、旅のスタート地点で食べた「チーナン食堂」。
行き当たりばったりの旅だけど、思った以上に良い店に巡り合っているのだな、と嬉しくなる。
カウンター席に座り、看板メニューの“鶏白湯醤油 780円”を注文。
ほどなくして、コクのある香りがするラーメンがやってきた。スープはとろみがあり、醤油を効かせた濃厚系のようだ。
すでに腹はある程度膨れており、少々不安な気持ちになったが、スープをひと口飲むと箸が止まらなくなった。
スープは名前にもある通り鶏のエキスがベースでこってりとしているが、味の濃さは全く感じさせない。
醤油の優しい塩味で、鶏の旨味が引き立ち、スルスルと入ってくるのだ。カタ茹でにしてある細麺はプツプツとした歯切れで、ほどよい食べ応え。
あっという間に麺を完食して、目に入ってきたのはカウンターにある“シメのチーズリゾット 300円”というお薦め案内。
鶏白湯醤油の濃厚なスープと相性抜群だという。
即、追加注文。
入店前の迷いはいずこへ……、思わず苦笑が漏れる。
白米にシュレッドチーズをかけた小鍋がすぐにやってきた。
固形燃料で温めると、チーズが徐々に溶けてきてスープと混ざり合っていく。
とろとろのリゾットをハフハフしながら口にする。
濃厚な鶏のエキスにチーズの塩味とコクが加わり、旨味が口中に広がった。まるで脳に直接語りかけてくるような美味しさだ!
リゾットの最後のひと粒も平らげ、お腹一杯。
続々と注文が入るラーメンをさばいていた店長らしき人の様子を見ると、どうやらひと息ついたようだ。
近くにお薦めの店がないか聞いてみよう。
「『四ツ倉駅』というところにある『松喜食堂』の醤油ラーメンは旨いですよ!僕は若い頃からずいぶんと食べてきました。常磐線で北に行くならぜひ立ち寄ってみてください」と、店長馴染みのラーメン屋を教えてくれた。
調べてみると、海に程近い場所で屋台のような店舗を営んだいるよう。
すでに美味しそうな予感がするが、すぐには向かえない。
少々張り切って食べ過ぎた。腹はさらに膨らみ、ズボンのボタンが悲鳴をあげている。
少し時間を空ける必要がありそうだ。
■中華そば 風 KAZE
〈住所〉いわき市平作町1-1-14 第2鈴木ビル
〈電話番号〉-
〈営業時間〉11:00~14:00 17:30〜20:30
〈定休日〉月曜
〈駐車場〉5台
濃い味&すっきり味の浜通り土産ラーメン。
腹ごなしに「いわき駅」周辺をうろうろとしていたら、あたりが薄暗くなってきた。
夕方になると営業している店はグッと少なくなる。
今晩は近場のビジネスホテルで一泊することにしよう。
チェックインして、バックから取り出したのは“浜鶏ラーメン”と“軍鶏鳥中華”。
日中立ち寄った土産屋で見かけて、購入しておいたのだ。
ラーメン旅の初日は、この“土産ラーメン2種類”で締めくくろう。
青色パッケージの“浜鶏ラーメン 390円(1食)”は、かつて富岡町にあった行列ができた幻のラーメンを復刻したもの。鳥ベースの濃い味のスープで、たっぷりとした旨味を感じるという。
“JR東日本お土産グランプリ”の銀賞を受賞しているそうだ。
“軍鶏鳥中華 840円(2食)”は、川俣町の特産として育てられている“川俣シャモ”を使った醤油ベースのラーメン。脂っぽくないのに深みのあるコクが味わえるとある。
どちらも具材は付いていないので、コンビニで買った刻みネギをふりかけて実食!
まずは、“浜鶏ラーメン”。しっかりとした鶏の出汁と濃い目の塩味を感じるが、全くクドさを感じない。あっさりとしているのにコクがある不思議な味わい。飲んだ後のシメには、ぴったりだ。
“軍鶏鳥中華”のスープも鶏出汁だが、味わいが甘口ですっきりとしている。優しい鶏の旨味を感じる。
まさに対極の鶏の美味しさを味わえ2種類のラーメンだ。
“浜鶏ラーメン”は、富岡町に店舗も構えているそう。
■浜鶏 さくらモールとみおか店
〈住所〉双葉郡富岡町小浜中央416
〈電話番号〉0240-25-8614
〈営業時間〉11:00~15:00
〈定休日〉土曜 日曜
〈駐車場〉あり
我を忘れる味とはまさにこのことだ。
翌朝、「いわき駅」から常磐線の下り電車に乗り、「四ツ倉駅」へと向かった。
「いわき駅」〜「原ノ町駅」の区間は、上下線の本数が少ない。次の電車は2時間後といったこともある。
乗り過ごしたら大変だとは思うが、なんだかゆったり流れている空気が心地よい気もする。
普段は都会の流れに身を任せてあたふた生きているから、時間を気にせず過ごすのもたまにはいいかもしれない。
その土地の雰囲気に身を委ねるのも旅の醍醐味のひとつだ。
「四ツ倉駅」を降りると、海岸までの一本道がのびていた。
道を進むとだんだん潮の匂いが強くなる。小高い土手が現れ階段を登ると、日差しを反射して輝く、青空と太平洋が目の前に広がった。
気持ちがいい景色だなぁ。
水平線がスーっとまっすぐに伸びていて、海と空のグラデーションが美しい。しばらく伸びや深呼吸をしたりして、海の雰囲気を満喫してから目当てのラーメン屋に向かった。
地図を見てみると、現在地から歩いて1分となっていた。
気づかないうちに近くまで来ていたようだ。
海沿いの土手を降りて、目の前の国道6号線沿いに「松喜食堂」はあった。
コンクリート製の建物に挟まれて建つ、赤く塗られた木製の建物。
なかなか味のある雰囲気だ。一体どんな店主が営んでいるのだろう。
扉には「四倉名物 ミックスソースカツ丼」の文字が。
今日は1食目だから、まだまだラーメンを食べる予定だ。あまりアクセルを吹かしすぎて早々に腹一杯になるのは避けたい。
でも、入店前にこれだけ推されて頼まないのは、なんだか申し訳ない気がするなぁ……。
店内は、まさに屋台の様相を呈した簡素なつくり。
なるほど。なるほど。と思いながら、メニュー名を見ると“ミニソースカツ丼とラーメンのセット 950円”という親切な組み合わせがあるではないか。
ミニサイズだったら、胃袋の容量的にも誤差で済むかもしれない。
注文後、ほどなくして“ミニソースカツ丼とラーメン”を受け取る。
あれ?なんだかめちゃくちゃ旨そうだ。
もちろん、今まで出会ったラーメンも旨そうだったのだが、なんだか料理が纏っている雰囲気が違うのだ。
ソースカツ丼もラーメンも心なしか輝いて見える。
まずは、ラーメンをひとすすり。
「う、うめぇ〜〜〜〜〜!」
思わず、心の中で大絶叫。
昔ながらのツルっとした中太麺に、澄み切った味わいの醤油スープがよく絡んでいる。
派手な味ではないけど、雑味が一切なく、優しく体に染み込んでくるような味わい。丁寧に下ごしらえをしたであろう店主の心遣いを感じる。
「松喜食堂」はラーメンだけにあらずだ。
名物だというソースカツ丼にも手を伸ばす。
鼻をくすぐるソースの香ばしさを感じながら、ガブリ。
ザクっ!じゅわぁ〜。
衣の中から肉汁が溢れ出してきた。
「う、うますぎる……」
我を忘れるとはまさにこのことで、無我夢中でソースカツ丼を頬張っては、ラーメンをすする。
ソースの濃い味と澄み切った醤油の香りで、箸がすすむすすむ。
あっという間に平らげた。
正直、独特な店構えに完全に油断していた。
まさか、こんな不意のタイミングで心で絶叫するほどの味わいに出逢うとは。
「松喜食堂」、おそれいりました!!
どうしても店主にお礼が言いたくなり、声をかける。
「ご馳走様でした!!とても美味しかったです!」
ラーメンをつくってくれていたのは、仲睦まじいご夫婦だった。
ご主人がにっこりと笑って、応えてくれる。
「わざわざ遠くまで食べに来てくれてありがとねぇ。口に合ったようなら良かったよ。私自身、毎日食べれるような味のラーメンが好きだから、すっきりとした醤油味にしているんですよ」
いわき市にある「中華そば 風」の店主が薦めてくれたことを伝えると、彼も永く通ってくれている常連さんなんだよ、と嬉しそうな表情を浮かべてくれた。
料理には、つくる人の性格や想いが表れる。「松喜食堂」の懐の深い美味しさに納得だ。
いつかまた、必ず食べに来ようと思える。そんな味だった。
■松喜食堂
〈住所〉いわき市四倉町東2-165-68
〈電話番号〉090-2956-7509
〈営業時間〉11:00~14:00
〈定休日〉水曜
〈駐車場〉なし
――③へとつづく。
文・写真:河野大治朗